19 耄耋独語
一巻、未刊写本。文化十三年(一八一六)の春の著で、時に玄白八四才、著述としては最後のものである。この年正月九日の節分に八十四才を迎えた彼は、例の得意の計算法で生来二万九千九百十九日になり人々はその天寿を羨んでいるがおいぼれると思うことも自由にはならないとて老の繰言を並べ、高齢は決して楽しいものではないことを知らせるためにこの一篇を記すという意味の自序がある。内容は一種の回想録体の自叙伝で、「蘭学事始」の欠を補う玄白史料として重要である。末尾に大槻玄沢の漢文の跋1)があり、老いぼれたと称する師の精力絶倫なるをたたえている。本書は伝写本ただ一部のみで、「玉味噌」と合綴され、慶応大学医学部図書館の富士川本中に存する。かつて大鳥蘭三郎氏により一端が「医学生とインターン」誌上に掲載されたほか公表されていない。玄白の最後の著述として重視すべき文献である。
(注)
1)跋 書物や書画の終りに,その来歴や編著の感想・次第などを書き記す短文