17 鷧斎遺稿

 現存歌集一巻、未刊写本。本書はもと全部で何巻あったものか明かでない。現存するのは『歌之一』と記した一巻のみで、ただ一部慶応大学医学部図書館に所蔵されている。富士川游氏旧蔵本。別に富士川氏旧蔵に詩集一巻があり「遺稿」の一部であったが、近時散逸して伝を失った。再出現を期待するものである。現存の歌集は『惜陰斉』の罫紙1)に写され、文化四年(一八〇七)の作品全部と翌五年の秋までおよび文化三年秋の和歌が季節順に記されている。歌数全四四四首、題詠も多いが紀行歌や贈答歌もすくなくなく、中にはかなり長い詞書ことばがきのあるものもあって交友関係や玄白の風流を知るよい資料である。歌は決して巧みというほどではないが達意の歌で古今こきん調のものがおおい。玄白が誰について和歌を学んだかは判らないが、日記の中にも散見するので、折にふれては詩興を生じて詠じたのであろう。七五才前後の玄白の日常と風流を知るに欠くことのできないものである。

 

(注)

1)『惜陰斉』の罫紙 医学書誌論考(昭和62年)大鳥蘭三郎おおとりらんざぶろう著(国立国会図書館デジタルコレクション)の鷧斎日録の項によれば、罫紙の版心(前小口、書物の背の反対側の部分)に惜陰斉と刷られている。惜陰斉せきいんさいは玄白が使っていた書斎の号。

杉田玄白の著述
はじめに
(一)著述
1 瘍科大成
2 広瘡総論
3 解体約図
4 解体新書
5 狂医之言
6 的里亜加纂稿
7 大西瘍科書
8 乱心廿四条
9 後見草
10 和蘭医事問答
11 養生七不可
12 鶴亀の夢
13 形影夜話
14 玉味噌
15 野叟独語
16 鷧斎日録
17 鷧斎遺稿
18 和蘭事始
19 耄耋独語
20 天真楼試功方
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