8 乱心廿四条
一巻、未刊写本。天明三年(一七八三)玄白五一才の作で、他の随筆とおもむきを異にした処世教訓集。玄白が懇意の吉原の女郎屋扇屋勘兵衛がその子に教えた処世訓を玄白がまとめて筆記したもの、学問も教養もなく五十才までに十八度も業をかえて、最後に青楼の主人となり巨万の財を築いた勘兵衛を、玄白は身分や地位を措いて人格的に敬意を払っていた。ここにも玄白の飾り気のない赤裸の人となりが偲ばれる。
本書は今まで全く知られなかった史料で、玄白自筆の原本を杉靖三郎1)氏が大槻家の反古中から検出して学界に紹介された。伝本は現在この一部のみである。内題に『忘八扇屋勘兵衛随筆 乱心廿四ケ条』と題され、末に玄白のあとがきがある。内題の首に見える忘八2)とは俗語で貞操なき者の意、勘兵衛が女郎屋の主人であるから名付けたもの。乱心とは狂的状態、マニアのことである。この全文はかつて杉氏により「綜合医学」第五巻(昭和廿三年)に掲載された。
(注)
1)杉靖三郎 生理学者、性評論家、翻訳家、医学博士。「綜合医学」第五巻(昭和廿三年)に掲載されたことは確認できなかった(医学書院出版総務課)。
2)仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの徳目のすべてを失った者の意から、郭通いをすること。 また、その者。 転じて、遊女屋。 また、その主人。