15 野叟独語
三巻、未刊写本。文化四年(一八〇七)玄白七五才の著で、家督を養子伯元に譲り隠居したのち著述したものと伝えられる。「形影夜話」と同じ趣向で、影法師と自分との問答に托して当時の世相を述べ政治批判をなし、進んで外攻に対する積極的な手段を論じた書。幕府の政策に対して思い切った批判がくだされており、江戸の防備についての私見も極めて適切で、玄白の政治眼を知るに十分である。憂国の志士玄白はひそかに国の前途について心を痛め、胸中深く期するところがあった。太平に馴れ柔弱となった旗本や奢侈に耽溺している諸大名にひとり憤激をもっていたのみでなく、その根本的是正の方策を考えていたのである。本書はその性質上筺底に秘められ公開されなかったので伝写はきわめてすくない。ようやく明治廿四年に「温知叢書1)」に収められ翻刻されてから始めて流布し、のち数種の叢書に入れられたものはすべて「温知叢書」にもとづいている。
(注)
1)温知叢書 別称、近古文藝温知叢書、小宮山緩介標註