1 瘍科大成
八巻、玄白二七才頃の処女作である。明の「外科政宗」をはじめ、十数部の漢方外科書より病名別に編集録出したもの。末に処方集を附す。従来本書は刊本「蘭学事始」に附した杉田玄端1)の記載(もと大槻玄沢2)の筆記した小伝を転載)によって四五才ころ『新ニ日本一流外科ヲ創建セント思惟シ、漢土ノ書籍中外科ニ係ル確言要語ヲ逐一撰修』したものとされていたが、内容や成立の事情より少くとも青年時代の作であることが明かである。中年におよんではヘイステルの外科書の反訳3)に手をつけていたので、この記載は訂正を要する。流布本は多くは抄本で、処方集だけのものが多い。未刊本であって伝写のみで伝えられた。本書のほぼ完備せる八巻本は京大富士川本の中にある。蘭学に手を染める前の玄白の医学を知る貴重な史料で、家学のオランダ流外科に対して疑いをもっていた状態の一端が推知出来る。
(注)
1)杉田玄端 杉田玄白の義理の曾孫、医学者、蘭学者、幕臣、福沢諭吉と親交を結んだ。
2)大槻玄沢 一関藩の医師、天眞楼で医術を修めた。紫蘭堂をひらき、宇田川玄信など多くの人材を育成した。解体新書を改訂し、重訂解体新書を出版した。
3)反訳 速記、録音データを文字起こしする意味であるが、ここでは翻訳の意味で使われていると思われる。