3 解体約図
全五葉一組、安永二年(一七七三)刊。「解体新書」の公刊の前年に、世人の反響をみるため内容紹介の意味で出版した五枚一組の一枚摺である。杉田玄白が本文を記し、中川淳庵1)が校訂し、図は熊谷元章2)が描いて江戸の須原屋から売出した。その結果、玄白らが懸念していた発禁も反対もなかったのでこれに力を得て世紀の大著「解体新書」を公けにしたのである。したがって本書は性質上流布きわめて少く、現在杉田鶴子博士3)が生前慶応大学に寄贈した一本のほか、暉峻義等4)・石橋栄達5)両氏所蔵の三部しか知られていない。
本書を「解体新書」と比較してみると、単なる抄録や要約ではなく、図も異なっており、これ自体独立した一部の解剖書であることが明かである。また本書の本文によって玄白が西洋医学をいかに適確に把握し、自家のものとしていたかが判る。玄白ときに四一才。「ターヘル・アナトミア」入手後三年目に当る。本書は緒方富雄氏6)著「蘭学のころ」に写真版で全部収載されている。
(注)
1)中川淳庵 若狭小浜藩の蘭方医、本草学者、解体新書の翻訳に当初から参画した。
2)熊谷元章 熊谷儀克、元章は通称。若狭の人
3)杉田鶴子 本名杉田つる。大正・昭和期の歌人、小児科医、杉田玄白の五世孫。玄白の血筋を継ぐ最後の医師
4)暉峻義等 大正・昭和期の労働生理学者、東大医学部卒業
5)石橋栄達 戦前・戦後期の動物学者
6)緒方富雄 昭和期の血清学者、医学史学者