非正物不可苟食  日本型食生活の健康への役割


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村田昌一(むらた まさかず)前 長崎大学水産学部教授

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 近年、日本では高血圧、糖尿病、動脈硬化症、心臓疾患等の生活習慣病の患者さんが年々増加し、健康に老いることが難しい時代となってきました。この原因には穀類、豆類、野菜類、魚介藻類などのいろいろな食品の素材を使う日本型の食事組成(日本型食生活)から脂質、砂糖の含量が多く、畜肉類、乳製品主体の欧米人の食生活(欧米型食生活)へと変化したことが一因となっていると考えられています。

日本型食生活の健康への役割
 日本型食は食品素材の種類の違いだけではなく,いろいろな食品素材を組み合わせ、さらに味、色、香りを楽しむ文化であり、そのために蒸す、焼く、揚げるなどで調理を行うことが特徴だと考えます。しかし、この特徴は食品素材の中,あるいは組み合わされる食品素材の間でいろいろな機能性成分もまた組み合わされ、複雑な組成となり、さらに調理によりそれらが熱やその他の成分により変化を受ける可能性を意味しています。これにより、機能性成分は作用が強まったり,弱まったり、あるいは完全になくなることも予想されます。そのために、食品のほんとうの機能を確認するには「食品まるごと」や「いろいろな食品の組み合わせ」、すなわち「実際の食生活に即した科学的検討」が必要だと考えます。

ワカメ「まるごと」は血液と肝臓中の中性脂質濃度を低下させます
 そこで,水産食品素材丸ごとの摂取がヒトの健康へ与える影響を明らかにすることを目的として動物実験を行いました。
乾燥ワカメの粉末をいろいろな量で含むエサで実験動物(ラット)を3週間飼育し、ワカメを含まないエサを食べたラットと血液と肝臓中の脂質濃度を比較しました。すると、ワカメを食べると中性脂質の濃度が低下しました。さらにその原因が脂肪の代謝の中心となる肝臓の「脂肪を分解する作用」を高めた結果だと分かりました。このことから、ワカメが高中性脂質血症や動脈硬化症などの予防に役つとともに、肝臓での中性脂質の分解を高めることから肥満の予防にも役立つと推察します。

ワカメと魚の食事メニューではこの効果が増強します
 ここで食生活を考えてみましょう。ワカメのみそ汁と焼き魚、実はこのメニューには複数の機能性成分が組み合わさっています。魚に含まれるイコサペンタエン酸(EPA)とワカメです。どちらも血液と肝臓中の中性脂質濃度を下げる作用があります。同様の作用を持つ2つの食品が組み合わされるとその作用はどのように変動するでしょうか。
 EPAを含む魚油を入れたエサ、ワカメを入れた餌、および魚油とワカメを同時に入れたエサをそれぞれラットに食べさせました。その結果、ワカメと魚油を同時に入れたエサが最も血液と肝臓の中性脂質濃度を下げることが確認されました。この結果は水産食品を組み合わせる日本型食生活が健康に良いとの一つの科学的証明になると考えます。

魚食(魚をたべること)は血栓(血のかたまり)の形成を調節します
 最近、高齢者や働き盛りの壮年層に脳梗塞や心筋梗塞で亡くなる方が増えています。これは血液中に血のかたまり(血栓)ができ、脳や心臓の血管を詰まらせることが原因とされています。これら病気の予防には血液が異常に固まること(血液凝固)を予防することと余分な血栓を溶かすこと(線溶(せんよう))が重要であると考えます。これまで魚を食べることはEPAなどの高度不飽和脂肪酸が血液凝固を抑えることで血栓の形成を防ぐと報告されてはいますが、どうもそれだけで魚食の血栓形成の予防作用は説明できないようです。そこで、魚のどの成分が、どのような働きで血栓形成を予防しているかを実験することにしました。

魚のタンパク質に血栓を溶かす働きが見つかりました
 イワシからタンパク質を調製し、実験動物(ラット)に食べさせ、血液が固まる時間(血液凝固時間)や血液が凝固するためのいろいろな因子量(血液凝固因子活性)、できた血栓を溶かす力(血液線溶系因子活性)への影響を測定し,魚の油のみを含むエサを食べたラットのそれと比べました。その結果、魚の油には血液の凝固を抑える作用はありましたが、血栓を溶かす作用は見られませんでした。一方、魚のタンパク質は血液凝固を抑える作用は弱いのですが、できた血栓を溶かす作用は強いことがわかりました。これらの結果から、魚食による血栓形成を予防する作用は「魚の油による血液の凝固を抑える作用」と、「魚のタンパク質による、できた血栓を速やかに溶かす作用」が組み合わさった作用であることが分かりました。これらの実験より、魚を丸ごと食べる食生活が脳梗塞や心筋梗塞などの余分な血栓の形成が原因となる疾病の予防や治療に有効な食生活であることが科学的に解明できたと考えています。

私たちは食品の機能性成分は食品から取ることが原則だと考えます
 食品中に機能性成分が見つけられて以降、機能性成分を食品から抽出し、純度を高めた機能性食品や特定保健用食品が数多く市場に出ています。その一方、これら製品には、「ほんとうに効果があるの?」、「多量に長期間食べても安全?」など、いろいろ疑問視されています。私たちはできる限り食品に含まれる機能性成分は食品素材の形で、すなわち食生活の中で食事メニューとして食べることが効果的ではないかと考えます。健康な老後生活のために、水産食品を主体とした日本型食生活を見直そうではありませんか。


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