尿路結石を予防する「新・養生七不可」


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郡 健二郎名古屋市立大学 学長

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 多くの患者さんが悩む「尿路結石」の予防法を「食」の視点からお話しします。
 尿路結石とは、腎臓・尿管・膀胱にできた結石の総称です。主な症状はお腹や腰の激痛と血尿です。わが国では男性の7人に1人が発症する高頻度の病気です。皆さんの周りにも結石の患者さんがおられることでしょう。しかも、結石を放置すると腎不全に至ることがある恐ろしい病気です。
 尿路結石を予防する方法を、杉田玄白翁に習って「新・養生七不可」にまとめました(表1)

    尿路結石を予防する「新・養生七不可」(表1)
    1) 飲水を少なくすべからず
    2) 脂肪を過剰に摂取すべからず
    3) 肥満になるべからず
    4) 野菜・穀物・海藻の摂取を少なくすべからず
    5) 夕食は就寝前の3時間以内にすべからず
    6)動を勤めて安を好むべからず(杉田翁と同じ)
    7)血尿と腹痛を尿路結石と決めつけるべからず

1)は、皆さんも既にご存知だと思います
 水分摂取の勧めは、医聖ヒポクラテスが唱えたと言われています。現在の医学知識では、1日2リットル以上の水分摂取で、5㎜以下の小結石なら自然に出ることがわかっています。また、尿が薄まることで結石ができにくくなると考えられます。飲む水分の種類は何でも良いですが、pHが低い炭酸飲料水は、骨の成分(カルシウム)を溶かし、腎臓で結石の成分になるので多量に飲むことは控えてください。

2〜5)は、私たちの研究から生まれた予防法です
 水分の摂取は重要ですが、一旦結石が出来ると、たとえ多量の水分を飲んでも溶けません。例えれば、紅茶コップに沈殿した砂糖はお湯を入れると溶けますが、道路の石コロは熱いお湯でも溶けないのと同じです。
 そこで私たちは、結石が出来る時には、砂糖を石コロのように固めるセメントのような物質があるのではと仮説を立て、その物質を見つける研究を始めました。
 苦労しましたが、ようやく見つけたのが「オステオポンチン」という物質です。さらにオステオポンチンの研究を進めたところ、「オステオポンチンは動脈硬化において血管を石灰化させる物質」であることを見出したのです。
 もう1つ、私たちが注目したのは、わが国の尿路結石の患者は戦後急速に増えていることです。しかも尿路結石の患者さんは先進国に多く、菜食主義者に少ないことから、欧米化の食生活が尿路結石の重要な原因だと考え、研究を進めていました。
 これら2つの研究成果から、「尿路結石は動脈硬化の発生機序に似ており、脂肪の過剰摂取が原因の1つでは」と、私たちは考えました。
 結果は予想通りでした。実験動物を用いて、大量の脂肪成分を長期間与えると尿路結石ができたのです。私たちは嬉しさよりも、「まさか」と驚きました。さらに研究を進め、動脈硬化の治療薬は尿路結石の予防にも有用であることを証明できたのです。
 これら一連の研究成果は、それまでの尿路結石の定説を根本的に覆したことから、当初は学会から認められませんでした。このようなことは新発見ではよくあることです。私たちはそれに挫けず研究を進め、最終的には「脂肪の過剰摂取による尿路結石の形成機序」を分子レベルで解明することができました。
 臨床的には、尿路結石の患者さんは、大動脈の石灰化が著しいことも見出しました。そこで私たちは、「尿路結石は生活習慣病だ」と提唱しました。しかも尿路結石の好発年齢は30〜50歳で、動脈硬化よりも若いことから、「尿路結石の激痛は生活習慣病を予防するアラームだ」と話しています。
 表1に示した「新・養生七不可」の項目は、尿路結石の治療ガイドラインに取り上げられ、食生活からの尿路結石の予防法が浸透した効果でしょうか、わが国で全国疫学調査を始めた1965年から2005年までは、尿路結石の患者さんは増加の一途をたどっていましたが、2015年に初めて減少の兆しが見られています。

7)血尿と腹痛を尿路結石と決めつけるべからず
 この点を強調しておきます。尿路結石の5年再発率は約50%と高いことから、尿路結石を経験した人は、血尿や腹痛があっても、「また結石ができた」と自己診断し、病院を受診しないことがあります。しかし、その中には稀に、尿管腫瘍などのガンがあります。ご注意ください。

番外編をお話しします。私ごとですが、私の先祖に儒学者の柴田栗山がいます。栗山は、香川(讃岐)に生まれ、東京(江戸)の昌平坂学問所に務めました。栗山は杉田玄白と江戸で交流があり、「杉田玄白の外科療法は一番だ」と称え記しています。私は、何かの縁を感じ、二人の偉人を見習いたいものと思います。

 

著者紹介

郡 健二郎 (こおり けんじろう)

 私は現在、名古屋市立大学理事長・学長を仰せつかっていますが、泌尿器科の医師、医学研究者でもあります。
 私は、1973年大阪大学医学部を卒業後、近畿大学や南マンチェスター大学(英国)留学などを経て、93年名古屋市立大学泌尿器科教授に就任し、2001年附属病院長(兼務)、05年医学研究科長・医学部長(兼務)、14年から現職にあります。この間、公立大学協会会長を2年間務め、地域の高等教育に携わりました。専門研究は尿路結石で、その概要を本稿で紹介しました。一連の業績に対して日本医師会医学賞、紫綬褒章などを賜りました。
 2005年、小浜市が生んだ医聖を記念した「杉田玄白賞」を拝受しました。玄白翁の名前と小浜市の崇高な理念に恥じぬよう日々研鑽し、小浜市の名前を全国に轟かせることに多少なりとも貢献したいと思います。


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