ポリファーマシーって言葉ご存じですか?

白波瀬 正樹杉田玄白記念公立小浜病院 薬剤部長

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 皆さんはポリファーマシーという言葉を耳にされたことはあるでしょうか?
『多くの』という意味の『ポリ(poly)』と、『くすり(薬)、薬局』という意味の『ファーマシー(pharmacy)』の、2つの言葉から構成されています。そのまま読むと『多くの薬』となり、必要以上にたくさんの種類のお薬を飲んでいることを表しています。
 それでは、たくさんの種類の薬って、いったいいくつ位を表すのでしょうか?
 実は、単に服用する数が多いことを意味するわけではないため、具体的な数字は決められていません。したがって、合計10数種類の薬を飲んでいるからポリファーマシーというわけではないのです。
 厚生労働省がまとめた高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)では、ポリファーマシーとは『多剤服用の中でも害をなすもの』と定義されています。
 その指針には、75歳以上の40%以上が5種類以上、また、約25%の方が7種類以上の薬を用いて治療されていること、一方で6種類以上の薬を常に使っていると薬による有害事象は増加することが書かれています。
 ということは、高齢者の方々には、きちんとポリファーマシーという言葉を覚えてもらわないといけませんね。
 それでは、今自分が使っている(飲んでいる)薬は、どの症状の治療のために医師から処方されたのか理解できているでしょうか? また、分からないときは誰に聞きますか?かかりつけ医のお医者(医師)さん? かかりつけ薬局の薬剤師さん? 家族? 人それぞれ違うと思いますが、自分が使っている(飲んでいる)薬が何のために処方されて渡されているのかを分かっていなければ、誰に聞いても答えが見つからない場合があります。それではどうすればいいでしょうか?
 薬剤師の立場から言えば、薬を飲まれる皆さんが『おくすり手帳』を持ち活用されることをお奨めします。いつどこで処方され、もらった薬か分かるだけでなく、その薬の飲み方や注意することも書いてあります。もし複数の医療機関、或いは別の診療科(内科と循環器科など)にかかっている場合は、同じ成分の薬が重複して処方されていないか確認することで、薬を飲まれている皆さんだけでなく処方する側の医師、或いは調剤をする薬剤師にも分かりますので、薬の不必要な重複を未然に防ぐことができます。薬が重複してしまうと、当初治療のために必要な薬の飲む量が2倍に、或いはそれ以上になり、治療により、予期せぬ副作用を起こす可能性があります。
 ただし、おくすり手帳は必ず1人1冊としてください。3つの医療機関に診てもらっているからといって、おくすり手帳を別々に3冊持っていたら、薬が重複しているかどうかの確認が医師も薬剤師もできません。また、ドラッグストアで購入したお薬(OTC薬)や、サプリメント・健康食品類にも注意する必要がありますので、おくすり手帳のメモ欄に薬の名前と飲んでいる期間を書いておくことをお奨めします。さらに、ご自分で気づいた症状があれば、おくすり手帳にメモしておき、次の診察時に医師に見せることで副作用を早期発見できたり、薬を変更処方して頂けたり、更には症状の重症化防止にもつながる場合もあります。
 このように『おくすり手帳』は、多くの方々に必要性を理解されるようになってきており、持っている方の割合はどんどん増えてきています。しかし、まだ、『おくすり手帳』の名前を聞いたことがない方もおられるようです。今日をきっかけにして頂き、さらにおくすり手帳の普及率が上昇することを期待しております。
 さあ、ポリファーマシーという言葉を頭にいれて、おくすり手帳をすでに持っている方は 自分の活用方法が正しいかどうか、また、改めておくすり手帳の中身の確認をしてみませんか? 意外と新しい発見があるかもしれませんよ。

 

参考資料

高齢者の医薬品適正使用の指針(総集編)、厚生労働省

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015、日本老年医学会

 

著者紹介

白波瀬 正樹(しらはせ まさき)

1965年京都府綾部市生まれ。1984年京都府立綾部高校卒、1988年京都薬科大学薬学部薬学科卒、同年薬剤師免許取得。

19884月より、福井医科大学医学部附属病院(現 福井大学医学部附属病院)薬剤部に所属。

その後、医療法人林病院(越前市)を経て、202010月より杉田玄白記念公立小浜病院に入職、11月より現職。